今月のトッピクス

経歴詐称と会社の対応

最近、「市長の経歴詐称問題」が世間を騒がしていますが、従業員の経歴詐称に対する会社の対応はどのようにすればいいのでしょうか?
従業員の経歴詐称は、内容や業務への影響度によって会社の対応が大きく異なります。以下に「経歴詐称の内容別」に整理してみました。


1.学歴の詐称

  • 軽微な場合(例:出身校を実際より高く見せたが業務に無関係)
    → 就業規則の服務規律違反として注意・戒告などの懲戒処分が考えられます。
  • 資格や業務に直結する場合(例:大学卒業を必須条件にしている職種で中退を隠す)
    → 採用の前提が崩れるため、採用取消・懲戒解雇が正当化される可能性があります。

2.職歴の詐称

  • 軽微な場合(例:在籍期間を少し長く記載)
    → 信義則違反として指導・注意に留める場合も。
  • 重大な場合(例:管理職経験なしなのに管理職経験ありと虚偽申告し、採用・処遇に影響)
    → 採用無効や懲戒解雇の対象となり得ます。

3.資格・免許の詐称

  • 資格必須業務に直接関わらない場合(例:簿記2級を持っていないのに「あり」と申告)
    → 業務遂行に大きな支障がないなら、懲戒処分は軽度で済む可能性あり。
  • 業務に必須の資格が偽装されていた場合(例:運転免許がないのにドライバーとして採用)
    → 職務遂行に直結するため、採用取消や懲戒解雇が正当とされやすい。

4.身分・経歴に関する重大な詐称

  • 犯罪歴・社会的信用に関わる虚偽(例:重大な刑事事件の有罪歴を隠していた)
    → 業務や職場秩序に重大な影響を及ぼす場合、解雇の有効性が認められやすい。

5.会社の対応の流れ(一般的なステップ)

  1. 事実確認:本人に事情聴取、証拠(学歴証明・職歴証明・免許証)で確認。
  2. 影響度の判断:業務遂行能力・採用条件との関連を精査。
  3. 処分の決定
    • 注意・戒告
    • 減給・出勤停止
    • 懲戒解雇(ただし、合理性・相当性が必要)
  4. 就業規則との整合:懲戒事由に「経歴詐称」が含まれているか要確認。

6.ポイント

  • 経歴詐称=即解雇ではない。裁判例でも「業務遂行に重大な影響を与えるか」が判断基準です。
  • 解雇する場合は、採用条件との関係性・詐称の程度・故意性を明確にすることが重要。

📑 経歴詐称の種類別・会社対応一覧表(目安)

詐称内容具体例業務への影響会社の対応(目安)
学歴の詐称(軽微)高卒を大卒と記載(業務に関係なし)採用条件に直結せず注意・戒告程度
学歴の詐称(重大)大卒必須の職に中退を隠して応募採用要件を欠く採用取消・懲戒解雇の可能性
職歴の詐称(軽微)在籍期間を実際より長く申告能力評価に影響小注意・戒告
職歴の詐称(重大)管理職経験なしを「あり」と虚偽記載配置・処遇に重大影響出勤停止・降格・懲戒解雇の可能性
資格の詐称(軽微)簿記検定を「あり」と記載(必須でない)影響小注意・戒告
資格の詐称(重大)運転免許なしでドライバーに応募業務不能・安全に直結採用取消・懲戒解雇が有効
身分・経歴に関する重大な詐称犯罪歴や免許取消を隠す社会的信用・安全確保に影響懲戒解雇が正当化されやすい

📑 就業規則への懲戒条文例(経歴詐称関連)

第○条(懲戒の事由)
従業員が次の各号のいずれかに該当するときは、情状により戒告、減給、出勤停止、降格、または懲戒解雇とする。

  1. 採用時に提出した書類または申告において、学歴・職歴・資格その他経歴を偽り、会社に重大な影響を及ぼしたとき。
  2. 経歴詐称により採用の前提条件を欠くことが判明したとき。
  3. その他、経歴に関する虚偽申告により会社の信用または職場秩序を著しく損なったとき。

👉 ポイント:

  • 「軽微な詐称は注意で済む」ことを運用上区別する一方で、規程には「重大な場合は懲戒解雇もあり得る」と明記するのが実務上安全です。
  • 実際に処分する際は「詐称内容が業務や採用条件にどの程度影響するか」を必ず検討してください。